大判例

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京都地方裁判所 昭和53年(ワ)328号 判決

原告

太田正夫

右訴訟代理人

中坊公平

木村澤東

谷澤忠彦

正木丈雄

井上啓

岡田勇

島田和俊

被告

京都府

右代表者知事

林田悠紀夫

右指定代理人

一志泰滋

外七名

被告

西口年寿

右訴訟代理人

杉野忠郷

主文

一  被告京都府は原告に対し、金二七〇万円及びこれに対する昭和五一年一一月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告西口年寿は原告に対し、金六五〇万円及びこれに対する昭和五三年三月一九日から支払ずみまでの年五分の割合による金員を支払え。

三  原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、原告に生じた費用の二分の一と被告京都府に生じた費用を三分し、その一を被告京都府の負担とし、その余は原告の負担とし、原告に生じたその余の費用と被告西口年寿に生じた費用を三分し、その二を被告西口年寿の負担とし、その余は原告の負担とする。

五  この判決の一、二項は、仮に執行することができる。

事実

第一  申立

(請求の趣旨)

一  被告らは原告に対し、各自金一〇三四万円及びこれに対する昭和五一年一一月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求める。

(請求の趣旨に対する被告京都府の答弁)

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決並びに敗訴の場合仮執行免脱の宣言を求める。

(請求の趣旨に対する被告西口年寿の答弁)

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第二  主張

(請求原因)

一 被害の発生

原告は、昭和五一年九月四日、訴外有限会社誠和住研(以下(有)誠和住研という)の実質的代表者であつた分離前被告大野光則(以下大野という)を通じて、(有)誠和住研を売主、原告を買主として、京都市右京区西京極下沢町一二の二八所在の土地約四八平方メートル及び同地上の木造瓦葺二階建建物(以下本件土地建物という)の売買契約を締結し、大野の要求に応じ、前日三日申込金五万円を支払い、契約締結時手付金及び中間金として三四五万円を支払い、さらに、同年一一月二五日中間金三九〇万円を支払つた。

しかしながら、右は、大野らが売買代金名下に金員を詐欺しようと企て、あえて取引不能な本件土地建物を売却できるかの如く欺罔し、原告から代金名下に右合計七四〇万円を詐取したものであり、原告は、これによつて右相当額の被害を被つた。〈以下、省略〉

理由

第一被害の発生

〈証拠〉を総合すれば、以下の事実が認められる。

すなわち、原告は、昭和五一年九月三日、(有)誠和住研から、京都市右京区西京極下沢町一二の二八所在の本件土地建物(建売住宅)を、代金一〇五〇万円で買受け(ただし、契約書の日付は、同年八月二八日とした。)、所有権移転及び取引期日を同年九月三〇日と約した。右契約に際し、大野は、本件土地建物は(有)誠和住研の所有するもので、直ちに所有権移転登記が可能であるかのように説明し、かつ、京都府知事免許(2)三二〇七宅地建物取引業 有限会社誠和住研 代者取締役大野満司(旧名光則)なる名刺を使用し、宅建業者として正規に営業している様子であつたこと等から、原告及びその母親らは、右契約の締結について何らの不安も持たなかつた。そして、大野の求めるままに、同月三日申込金として五万円を、翌日手付金及び中間金として三四五万円を支払つた。

しかしながら、実際には、本件土地は株式会社日建開発の所有であり、本件建物も株式会社山成の所有であつた。しかも、右契約当時、大野は既に経済的に破綻状態にあつて、原告から代金を受領しても、これを直ちに旧来の債務の弁済に廻わさなければならない実情にあり、本件土地建物を取得して原告に移転しうる見込は薄かつたのである。しかし大野は、そのような実情を秘し、故意に不実の事実を告げて原告との契約を締結したものであつた。ところが、原告はそのことを知らないままに、大野からすぐ登記が移せるので残金を支払うように言われて、同年一一月二五日にも、更に中間金三九〇万円を支払つた。

しかし、大野は、原告からの受領金をすべて他に流用し、結局、本件土地建物の所有権を原告に移転することができなかつた。そのために、原告は、右支払金総額七四〇万円相当の被害を被つた。

以上のとおりの事実が認められ、右認定に反する証拠は存在しない。

第二被告府の損害賠償責任について

一はじめに

都道府県知事は、宅建業法に基づき、当該一の都道府県の区域内にのみ事務所を設け宅建業を営む者に対し、免許を付与すると共にその業務の監督を行つている(宅建業法第二章及び第六章)。そして、〈証拠〉によれば、被告府においては、知事は右の具体的な事務を京都府土木建築部建築課宅建業係をして担当させていることが認められる。

ところで、被告府は、その主張一において、右宅建業法における免許制度及び監督の保護法益は専ら公益であり、個々の購入者らがこれによつて受ける利益は単に反射的利益に止るものであるから、知事の宅建業法上の行政権限の行使及び不行使が、個々の購入者らに対する関係で違法となるいわれはなく、これについて被告府が国家賠償法上の損害賠償義務を負担することは、あり得ないと主張する。

しかしながら、宅建業法一条は、法の目的として第一に購入者等の利益の保護を掲げ、また六五条一号は、知事に対し、宅建業者が「業務に関し取引の関係者に損害を与えたとき又は損害を与えるおそれが大であるとき」に必要な指示をする権限を付与し、七〇条は、これを公告してその事情を一般に知らせ、取引の関係者の保護をはかることを定め、二七条は、個々の取引の相手方の損害を補填する目的で営業保証金の供託を義務付けていることなどにも明らかなとおり、同法の究極の保護法益は、まさに取引の関係者らの利益にあるというべきである。

そして、右取引の関係者の有する利益を、その集合としての公益と、個々の取引の関係者の有する具体的な利益とに観念的に区分し、前者のみが宅建業法上の保護法益であつて、後者は単なる反射的利益にすぎないものであると断ずることは、少くとも、その侵害に対する損害賠償義務の存否を論ずるうえでは、十分に論拠のあることとは解されない。

したがつて、右のいわゆる反射的利益論を論拠として、被告府の宅建業法上の違法な措置に関する国家賠償法上の責任を、一率に否定することはできない。

そこで、以下、被告知事の行為を、(有)誠和住研に対する免許の付与と、同社に対する監督とに分けて、それぞれ、まずそれに関する宅建業法の規定の趣旨を検討し、次に、証拠によつて被告知事の具体的な措置の内容を認定したうえで、これを右規定の趣旨と対照してその違法性の有無を判断し、そのうえで、被告府の損害賠償責任の有無を論ずることとする。

二(有)誠和住研に対する免許の付与による責任

1  宅建業法における免許基準

(一) 宅建業法(昭和二七年法律第一七六号)は、戦後復興期における旺盛な不動産需要を背景にして、いわゆる悪質不動産業者が横行し、一般消費者に被害が続発したことから、これら悪質業者を排除することを主眼として、宅建業者に登録制度を実施したことに始まるものである。その後、昭和三九年法律第一六六号による第五次改正において、登録制度を廃止し、新たに免許制度を設け、昭和四六年法律第一一〇号による第九次改正においては、免許の基準を一層強化し、かつ、業者による名義貸しを禁止し、その後、昭和五五年法律第五六号による第一一次改正では、この点をさらに強化してきている。その間、累次の改正において、取引主任者制度、営業保証金制度等の新設や、業務内容に関する各種規制の強化充実等がはかられてきてはいるが、同法の根幹をなすものが、右の免許制度(宅地建物取引を業として行うことを一般的に禁止し、とくに支障がないと認める場合にのみこれを解除すること)にあることは明らかであり、同法は、その基準について詳細な規定を置いている。

そこで、これを、本件免許当時の宅建業法(前記昭和五五年法律第五六号による改正前のもの、以下同じ)に基づいて、さらに詳細に検討することとする。

(二) まず、同法五条一項は「建設大臣又は都道府県知事は、宅建業の免許を受けようとする者が、次の各号の一に該当する場合においては、免許をしてはならない。」旨を定め、九項目にわたつて欠格事項を列記する。その中で、同項二号は「六六条八号又は九号に該当することにより免許を取り消され、その取消しの日から三年を経過しない者」をかかげ、同項三号は「この法律の規定に違反して罰金の刑(一般犯罪では禁錮以上の刑)に処せられ、その後三年を経過しない者」をかかげ、同項四号は「免許の申請前三年以内に宅建業に関し不正又は著るしく不当な行為をした者」をかかげ、いずれも、宅建業に関する非違行為の前歴者を厳しく排除していることが注目される。しかも、右二号においては、括弧書をもつて「当該免許を取り消された者が法人である場合においては、当該取消しの日前三〇日以内に当該法人の役員(業務を執行する社員、取締役又はこれらに準ずる者をいい、相談役、顧問、その他いかなる名称を有する者であるかを問わず、法人に対し業務を執行する社員、取締役又はこれらに準ずる者と同等以上の支配力を有するものと認められる者を含む。以下この条、……において同じ。)であつた者で、当該取消しの日から三年を経過しないものを含む。」と定め、右非違行為の前歴者をより広く、かつ業務の実態に則してより実質的に、とらえるべきことを明らかにしている。

他方、同項七号は「法人でその役員(その意義は、前記二号括弧書の場合と同じ)又は政令で定める使用人のうち第一号から第五号までの一に該当する者のあるもの」を掲げ、同項八号は「個人で政令で定める使用人のうちに第一号から第五号までの一に該当する者のあるもの」をかかげ、前記のような前歴者等が、会社もしくは他人の営業名義の下で、実質的に宅建業務にかかわることをも厳しく規制しているのである。また、同項五号は「宅建業に関し不正又は不誠実な行為をするおそれが明らかな者」をかかげて、一層網羅的に、かつ、予防的に、不適格者を事前にチェックするべきであることを定めている。

(三) このような規定を通じてみると、宅建業法の免許制度においては、宅建業務に関する非違の前歴者や、非違のおそれのある者を、厳しく、かつ、実態に則して極めてきめ細かく排除しようとしていることが明らかである。そして、不動産取引の実態に照らすならば、このような悪徳業者のきめ細かな排除こそが、取引の公正と購入者の利益の保護の為に不可欠であり、かつ、極めて効率的で実効性のある手段であることが、経験上明らかである。ちなみに、前記昭和五五年の第一一次改正においては、以上の点はさらに大幅に強化され、欠格期間はそれぞれ五年に延長され、前掲二号括弧書の内容も、より実効的に改められて周到かつ詳細に潜脱の方途を封ずるに至つている。

(四) このように見てくると、(有)誠和住研に対する宅建業免許に際して、大野は単なる従業者にすぎなかつたのであるから、宅建業法五条一項各号の資格審査の対象にならないとする被告府の主張(四項)は、極めて形式的かつ皮相的な解釈であつて、明らかに、右宅建業法の趣旨に相反するものであるといわざるを得ない。

2  大野の宅建業務及びこれに対する免許の経緯

前項で検討したような法の趣旨をふまえて、以下、大野に関する宅建業免許の経緯を、証拠によつて認定することとする。

〈証拠〉結果を総合すれば、以下の事実が認められる(なお、各免許の付与及び名義人等については、被告府と原告との間においては争いがない。)。

(一) 原告主張のとおり、大野の宅建業務は、昭和四四年一二月二〇日、西口美恵子に対して誠和住宅の商号で与えられた京都府知事二〇二九号の免許に始まる。すなわち、大野は、既にその当時、過去に宅建業法に抵触した前歴があつて、自分の名義で新たに宅建業免許を得ることができなかつたため、当時内妻であつた西口美恵子(昭和四六年入籍)の名義で右免許を取得したものである。その後、昭和四六年三月、商号が誠和住研と変更された。

ところで、被告知事は、右のような実態を知つてか、右免許の付与にあたつては、特に大野に対し、大野自身が右誠和住宅の営業に関与せず、他に専任の取引主任者を設置する旨の誓約書を提出させている。しかし、その後、右誓約の実行について継続的に指導監督を加えた形跡は全くなく、誠和住宅及び誠和住研の商号の下に行なわれた宅建業務の主体は、一貫して大野自身であつたとするほかはない。

そして、大野は、昭和四六年四月から同年八月にかけて、右誠和住研の名において、前後六件にわたり宅建業務に関し重要事項を故意に告げず、あるいは、不実の事実を告知して取引をするなどして多くの被害を発生させ、さらに、同年九月には二件にわたり預り金を横領し、同年九月末には、二件にわたり万動産売買に関する詐欺を犯した。そのため、大野は、同年、前記西口美恵子名義での宅建業免許の不正取得、宅建業法違反、横領及び詐欺の罪によつて起訴され、翌昭和四七年一一月一四日、これらについて懲役二年、執行猶予三年の刑に処せられた。右刑は、同年一一月二九日確定した。ちなみに、右判決において宅建業免許の不正取得の点は、「被告人は、自己がかつて宅建業法に抵触した疑いにより京都府知事から警告、指導されたことがあるため、免許の取扱基準上自己名義では宅建業免許を取得できないことから、「誠和住宅代表者西口美恵子」名義で同免許を申請してこれを取得しようと考え、右西口美恵子と共謀のうえ、真実は自己が右「誠和住宅」代表者となつて宅建業を営むものであり、かつ、専任の取引主任者として井筒章雄を設置する意思もないのに、これらの事実を秘し、……宅建業免許申請手続をとり、よつて同月二〇日付で同知事から「誠和住宅代表者西口美恵子」名義の免許を取得し、もつて不正の手段によつて宅建業の免許を受けたものである。」と明確に判示されている。

他方、西口美恵子についても、同年一月五日、宅建業法違反の罪について罰金刑が確定したため、同年四月一三日、これを理由として、前記二〇二九号の免許は取消された。

(二) ところが、そのわずか一ケ月後である同年五月一三日には、訴外中川正和に対し、商号を誠和住研として、新たに京都府知事第一―三〇〇七号をもつて宅建業免許が与えられている。

しかして、右(新)誠和住研においても、中川正和は全く名義上のみの営業主体であり、その実態は、従前と変わらず大野自身の個人営業であつた。現に、商号も従前と同じであり、事務所も同じく京都市中京区の大野の自宅に置かれ、かつ、大野は当初から従業者として届出られている。なお、中川正和は、前記西口美恵子の実母の夫であり、その住所は、京都市とは遠く離れた大阪府和泉市と届出られている。

そのうえ、免許の申請から交付までには相当の期間を要するものと考えられるから、右免許の申請は、前記西口美恵子に対する免許の取消の直後になされたか、あるいは、これを予想してその前から、あらかじめなされていたものと考えられる。

そうだとすれば、右免許の申請が、前記免許の取消にそなえ、大野を事業主体としていた従前の誠和住研の営業を継続する目的でなされたことは、外形上も明らかであり、被告知事は、その事情を知りながら、あるいは容易にこれを知り得る状況下に、あえて右免許を付与したものとするほかはない。

(三) 次に、大野は、自らに対する先の刑事判決を前に、右誠和住研の営業を法人化することとし、同年七月七日、新たに自ら資本金五〇万円を全額出資し、かつ、前記自宅を本店所在地として有限会社誠和住研を設立した。そして、取締役に中川正和及び大野自身、監査役に大野(旧姓西口)美恵子が就任し、中川正和及び大野が共同して会社を代表する旨の登記を了した。ところが、まもなく中川正和が死亡したため、同年八月二四日、妻の妹の夫である川合五一(住所は同じく大阪府和泉市)の名義を借り、同人を中川正和の後任の取締役として登記し、共同代表の登記をなした。その上で、同会社名で新たに宅建業免許を申請することとなつたが、大野が取締役になつていては免許が得られないということで、大野及び大野美恵子は、同年九月六日辞任の登記をした。そして右(有)誠和住研に対して、改めて、同年一〇月二三日、京都府知事第一―三二〇七号の免許が付与され、その前日先の三〇〇七号免許は法人成りによつて廃業とされた。

右の新しい免許こそが、本件被害発生当時大野が営んでいた宅建業務の根拠となつた免許である。右免許においても、事務所所在地は大野の前記住所とされ、かつ、大野自身、当初から従業者として届出られている。

そして、右免許の直後に、前記大野に対する宅建業法違反等の刑事判決が確定したのであるが、大野は、右(有)誠和住研に対する免許に基づき、従前どおりの商号を使用し、事務所を自宅において、堂々と宅建業務を継続し得たのである。

(四) その後、川合五一から名義を貸すことについて難色を示されたため、大野は、昭和四八年一一月一〇日、川合の辞任を登記し、自ら(有)誠和住研の取締役に就任したうえ、同月一二日、この旨を堂々と京都府に届出た。右届出は受理され、大野は名実共に(有)誠和住研の代表者として京都府の宅建業者のカードに正式に登載され、免許内容も、そのように変更された。

しかし、その後一ケ月近く経過後、大野は、被告府の宅建業係から「やはり、大野が代表ではいかん。」との趣旨の連絡を受けた。そこで大野は、今度は、妻の実弟である被告西口年寿(住所は同じく大阪府和泉市)の承諾を得て、同人が同年一二月二〇日(有)誠和住研の取締役に就任した旨の登記をなし、自らは退任の登記をなし、同月二六日、この旨を被告知事に届出て受理された。しかし被告西口は、前記川合五一と同様まつたくの名義上の取締役にすぎず、(有)誠和住研の業務には一切関与せず何らの報酬等の支払も受けていない。

(五) その後、免許の有効期間の三年が経過したが、昭和五〇年一〇月二三日、右免許は宅建業法三条二項に基づいて更新された。

以上の事実が認められ〈る。〉

3  被告知事の免許付与第における違法性

(一) 前項のとおり、「誠和住研」の宅建業務は、昭和四四年の誠和住宅に始まり、本件被害当時まで一貫して、実質上は大野個人の営む営業であり、(有)誠和住研において、大野はまさに「取締役と同等以上の支配力を有する者」(前記宅建業法五条一項七号、二号括弧書)に該当するものである。ところが、同人は、昭和四六年度中に宅建業務に関し多数の詐欺及び横領の罪を犯し、前記(有)誠和住研の免許申請当時、刑事訴追を受けていた者で、同法五条一項四号、五号にあたるのであるから、同社は、同法五条一項七号に該当するものであつたことが明らかである。そして、右事実は、前記のように(有)誠和住研の商業登記簿の記載、共犯者たる西口美恵子に対する免許取消の原因となつている宅建業法違反の判決、従前の免許の経緯、商号、事務所々在地等に照らして外形上も極めて容易にこれを知り得たことが明らかである。しかるに、前記事実によれば、被告知事は、被告府が本訴において主張する前記の形式的な見解に基づき、以上の事実を知りながら、あるいは、あえてこれらの事実を看過して、(有)誠和住研に対する前記免許を付与したことが明らかである。これが宅建業法上違法であることはいうまでもない。

(二) 次に、前記のとおり、昭和四八年一一月一二日、大野が(有)誠和住研の取締役としての登記を了し代表者として届出をした際には、これにより、同社は形成的にも明らかに宅建業法六六条三号、五条一項三号に該当することとなつたのであるから、被告知事としては、直ちにその免許を取消さなければならなかつたというべきである。同法六六条三号は法文上明らかに、知事に対し、このような場合免許を取消すよう義務付けているのであつて、その裁量の余地は原則として認められない。

ところが、〈証拠〉によれば、被告府の宅建業係は、大野が宅建業法五条一項三号に該当することに気付くや、前記のとおり暗に代表者の変更を指示し、その後被告西口が取締役として登記され大野の退任登記がなされると、その実態については何等の調査も行うことなく、問題が解消したものとしている。その上で、大野は単なる従業者にすぎなくなつたから、資格審査の対象とはならないと主張するのである。

右のような措置が、前記宅建業法の規定に反して違法なことは明らかである。のみならず、右のような措置は、問題の表面を糊塗することによつて、大野が(有)誠和住研の名の下に違法に宅建業務を継続することを許したものであつて、宅建業法の潜脱に対する消極的な加功であるとのそしりをさえ免れ難いところである。

(三) 次に、昭和五〇年一〇月二三日の前記免許の更新についてみるに、免許の更新は、一定期間ごとに改めて資格要件等の適合性を判断し、不適格者排除の実効を期するものであると解されるところ、右当時においても、前記認定のとおり(有)誠和住研は実質的に大野の個人会社であり、被告西口は単なる名目上の取締役にすぎず、大野が「取締役と同等以上の支配力を有する」という実態については何らの変化もない。このことは、被告知事において知り、もしくは容易に知り得たものと解され、これに反する証拠はない。しかして、右当時、大野はいまだ前記判決に基づき執行猶予中であり、宅建業法五条一項七号、三号により(有)誠和住研に対し免許の更新をしてはならなかつたことが明らかである。しかるに、〈証拠〉によれば、被告知事は、前記形式的な見解に基づき、これらの点について一切考慮を払うことなく、免許の更新を行つたものと認められる。

右措置が、宅建業法上違法であることは、いうまでもない。

4  被告府の損害賠償責任

以上のとおり、被告知事の免許に関する措置は、前項(一)ないし(三)の点において宅建業法上違法であつて、これについて故意もしくは過失の存することが明らかである。

しかしながら、原告が国家賠償法に基づいて被告府に損害賠償を求めるためには、右知事の措置が、宅建業法上違法であるのみならず、さらに、原告に対する関係でも違法性を有するものであること、及び、右措置と現実の損害との間に相当因果関係の存在することが必要である。

しかして被告府は、この点について、いわゆる反射的利益論に基づいて原告との関係での違法性を、作為・不作為を通じて一率に否定するのであるが、これの採用し難いことは、既に冒頭で述べたとおりである。

しかしながら、宅建業法上の免許付与行為に限つてみれば、免許の付与にあたつて同法の規定に違反することが、直ちに、個々の取引関係者との関係での不法行為法上の違法性を意味すると解することはできない。けだし、不正取引による取引関係者の損害の防止は、単に、免許制度のみならず、刑事法、民事法、その他諸々の社会規範やその後の監督権の行使等によつて、総合的になされているものであるから、通常の場合、違法な免許が直ちに取引関係者の具体的な権利ないし利益の侵害につながるものとはいえないからである。現に、(有)誠和住研に対する各免許においても、先にみたとおり、その有効期間の経過あるいは違法の理由となつた大野の欠格事由の消滅に至るまで、これによる具体的な被害は生じていないのである。したがつて、一般的には、違法免許の段階では、各取引関係者の有する保護法益の侵害の危険性は、潜在的かつ抽象的なものに止まつている。しかして、そのような抽象的な危険性のゆえに、違法な免許の付与が各取引関係者に対する関係でも違法性を有するとすべきか否かは、結局のところ、当該制度において、国や地方公共団体が個人の法益の保護についてどこまでの責任を負つているとすべきかの問題に帰することになる。そして、この点については、被告府の主張するとおり、宅建業務について免許制度を採つているということから直ちに、国や地方公共団体が、違法な免許から生ずるすべての危険について、個人に対して、損害賠償の責に任ずるまでの責任を負担していると解することは、できないものとするほかない。

以上は、大野が取締役に就任したとき直ちに免許を取消さなかつたことの違法性についても同様である。

また、以上のことを、被告知事の措置と原告の損害との間の因果関係の有無の問題としてみれば、結局、その間に当該制度の趣旨に照らして因果関係の相当性が認められないということに帰するわけである。

したがつて、被告府が前項(一)ないし(三)の宅建業法上の違法措置によつて、原告の損害を賠償する義務を負うものと解することはできない(もつとも、後述のとおり、被告知事は、右のように違法に免許を与えたことによつて、それによる危険が顕在化した際にはその監督権限を行使して取引関係者の被害を防止する義務を、通常の場合以上に負担するものと解すべきであるが、このことは、以上のこととは一応別の問題である。)。

三(有)誠和住研に対する監督処分権限の不行使による責任

1  宅建業法における知事の監督権限

宅建業法は、先にみたとおり免許制度を設けると共に、宅建業者に対する種々の行為規制を定め、かつ、これらの実効を確保する為に、建設大臣又は都道府県知事(以下知事とする)に対し、宅建業者に対する監督(免許取消を含む)の権限及び義務を規定している。これを法文により概観すると、次のとおりである。

(一) まず、宅建業法六五条一項は、知事は宅建業者が「業務に関し取引の関係者に損害を与えたとき、又は損害を与えるおそれが大であるとき」(同項一号)等には「必要な指示をすることができる。」と定める。右指示は、同法七一条の指導等と異つて宅建業者に対する拘束力を有し、これに違反すると、業務停止や免許取消の事由となりうるものである。

また、同条二項は、知事は、宅建業者が法における種々の行為規制、例えば取引態様の明示(三四条)、重要事項の説明(三五条一項)、不当な履行遅滞の禁止(四四条)、重要事項についての不実告知の禁止(四七条一号)等の規定に違反した場合には、「一年以内の期間を定めて、その業務の全部又は一部の停止を命ずることができる。」と定める。

以上の規定は、いずれも、知事に監督の権限を付与したもので、その具体的な行使は、知事の専門的な判断に基く裁量に委ねられているものと解される。

(二) 次に、同法六六条は、一定の場合には、知事は「当該免許を取消さなければならない。」と定め、その三号は前記のとおり「法人である場合において、その役員に五条一項一号ないし三号までの一に該当する者があるに至つたとき」を、八号は「不正の手段により……免許を受けたとき」を、九号は「前条二項各号(業務停止事由)に該当し情状が特に重いとき」を掲げる。

右免許の取消は義務的なもので、法文上知事に裁量の余地はないが、右九号の場合は「情状が特に重いとき」を要件とする関係で、その認定に相当の幅があり得ることも否定し難く、業務停止処分との選択において、認定上の困難が考えられる。

(三) さらに宅建業法は、以上のような監督権の発動を容易ならしめるために、その前段階として、必要な指導、助言及び勧告の権限(七一条)や、業者に対しての業務について必要な報告を求め、又はその職員により事務所その他業務を行う場所に立ち入り、帳簿、書類その他業務に関係のある物件を検査する権限(七二条)を、知事に対して付与している。また宅建業者に対しては、これに対応して、業務に関する帳簿を備付け、取引内容をそのつど記載することなどを義務付けている(四九条)。

以上のような規定を通覧すると、宅建業法は、その目的を達成する為に、知事に対し強力かつ広範な監督権限を付与すると共に、具体的な被害が発生し、あるいはそのおそれが生じたときは、個々の業者の具体的な業務内容にわたつてまで、指導と監督が加えられることを定めているものと解することができる。

2  (有)試和住研に対する知事の監督の実情

前項で検討したような法の趣旨をふまえて、以下、まず、(有)試和住研による具体的な被害が発生しだした時以降の、被告知事による右監督権限の行使ないしは不行使について、その実情を証拠によつて認定することとする。

〈証拠〉によれば、次の事実が認められ、これに反する証拠は存在しない。

(一) すなわち、(有)誠和住研についての取引上の問題は、昭和五一年一月ころ、最初に、被告知事に通告された。それは、購入者の代理人の弁護士から、売買物件の敷地面積に関して大野を検察庁に告訴した旨の通知があつたものであるが、被告知事の職員は、直ちに大野を呼出して事実を確認する等したうえで、これを当事者間の問題であると判断し、解決を当事者及び検察庁にゆだねた。

次に、同年三月ころ、手付金返還遅滞の苦情が一件あつたが、被告知事の職員が大野に解決を指導した結果、返金がなされた。その後、同年四月ころにも同様の苦情があつたが、これについても苦情の解決を促進するよう大野を強く指導し、翌月には解決した。さらに同年六月ころ、移転登記にあたり抵当権の抹消がなされず、引渡しが遅滞しているとの苦情があつたが、これも指導によつて解決した。

(二) このように、表面に表われた苦情は、この時期までそれぞれ個別的な指導によつて解決していたが、被告知事は、同年七月八日職員三名により(有)誠和住研の事務所の立入検査を行い、取引主任者が退職したのち補充されていない点等を指導し、改めて、翌九日、取締役である被告西口の出頭を求め、苦情が二度と起らないよう厳重に注意し、誓約書をとつた。以上の過程において、いかなる資料が得られどのように分析されたかは、被告府においてこれを具体的に明らかにしようとしないが、ともかく、被告知事の職員が被告西口を相手としたのは、前後を通じ右の一回のみで、他はすべて専ら大野を相手としている。

(三) その後、七月中には引続き四件の苦情が寄せられ、さらに八月にも新たに三件の苦情が続発してきた(七月中旬以降苦情が続出したことは、被告府において争いがない。)。なお、右各苦情(被害申告)の具体的な内容は、被告府においてこれを明らかにしないため必ずしも明確ではないが、後の免許取消処分の理由及び大野に対する刑事判決等によつて、右時期までの被害を一覧表にすると、別表のとおりである(ただし、証拠は、後記3項に掲記のものも総合する。)。

これに対し、被告府の宅建業係は、それまでと同様に、苦情のでるつど、大野に対しその解決を促進するよう「強力に指導」し、かつ、被害者らに被害者同盟の結成を示唆し、同年八月四日、府庁土木建築部第一会議室を提供して、被害者らと大野との間で、被害の弁償の方法等についての話し合いをすることをあつせんし、その際(有)誠和住研に後見人をつけるよう指導し、被害の弁償の促進をはかつた(この間の事情について、当時の宅建業係長の吉田延夫は、申出られた苦情の中には不動産業者としてけしからんと判断されるものもあり、右八月四日の時点で、(有)誠和住研は何らかの行政処分は免れない業者であるとの認識を持つた、しかし、被害者らにおいては、むしろ、大野に営業を続けさせて、その中から被害弁償を受けることを希望していたため、府としても、金銭的な解決がなされるのを見守るという姿勢をとり、被害弁償のあつせんに努めたものであると証言する。)。

(四) そして、その後も、宅建業係は、具体的な処分権限の行使を留保したまま、被害者らの代表格となつた訴外南達雄らから(有)誠和住研との交渉の経過をききとり、助言を行い、被害弁償の過程を見守ることに終止した。その間、同年九月一日には、京都府七条警察署長から被告知事に対し、(有)誠和住研の宅建業の免許の有無や被害状況について捜査関係事項の照会があり、被告府は、同月五日一一件の具体的な問題例を一覧表にして回答している。しかし他方、前記吉田係長は警察の捜査が進んでいることを前記南や債権者の松島一祐に知らせ、南らは直ちに警察署に対し、民事的な被害の救済が先であり、大野については京都府の指導の下に営業を継続させながら被害回復がなされつつある旨を述べて、暗に、強制捜査の実行を留保するよう陳情に及んでいる。

(五) しかし、その後、九月にも一件、一〇月に二件、一二月にも一件の苦情が続き、被告知事としても、同年一一月末ころには改めて処分の方針を固め、一二月一七日その為の聴聞会を開いた。しかし他方では、吉田係長は、被害者らに対し、大野の事業継続について、聴聞会にむけて要望書を提出するように示唆している。そこで、一二月一五日付で、被害弁償が解決の方向にある旨を記した要望書が被害者六名の連名で提出されている。もつとも、この時、被害者の一人は、府の求めによりそのような要望書を提出することは、府の責任逃れについて切ふだを与えることになるとして署名に加わつていない。

(六) 聴聞会において、大野は、問題となつた事案(いずれも五一年五月から七月にかけての事案五体(別表の番号5、9、11、12、13の件))について、すべて事実を認めたが、被告知事は、なおこの時点においても、その後の被害弁償の経過等をみるためだとして、前記要望書どおりあえてその処分を一時みあわせ、翌五二年四月七日に到つて、ようやく、前記五体の事案がいずれも宅建業法六五条二項五号の規定に該当し、同法四四条、三九条、四七条一号、三五号一項等に違反し、総合すると情状が特に重いとして、六六条九号該当を理由に(有)誠和住研の免許を取消した。

3  (有)誠和住研による被害の内容及びその背景事情

ところで、被告知事の以上の監督措置の当否を判断するについては、(有)誠和住研による前記のような被害の全貌及びこれを生ずるに至つた背景事情を、さらに検討しておく必要がある。

この点について、〈証拠〉を総合すると、次の事実が認められ、これに反する証拠は存在しない。

(一) すなわち、大野は、前記昭和四七年の刑事判決以降は、不動産ブームにのつて、格別の問題も起すことなく、比較的順調に不動産業を営んできた。しかし、昭和四九年一〇月ごろからキャバレーのホステスとの関係を生じ、一年半程の間に総額約四〇〇〇万円位を遊興費その他に浪費したこと、及び、昭和五〇年秋以降不動産取引が減少したことなどから、経済的に苦境におちいつた。ちなみに、昭和五〇年末当時大野の負債は総額八八〇〇万円、自社所有物件にみあう分を差引いた純負債も約三六〇〇万円になつた。

(二) ところで、大野の不動産取引は、その多くが、他人所有の物件について手付金だけ入れてこれを自社物件の如く広告したうえ、客と売買契約を締結し、中間金等を先受けし、かつ、客の為に不動産ローン等を組んだうえで、それらの受取代金を所有者に支払い、所有者から客に直接所有権移転登記を経由するといつた形態(いわゆる手付販売)である。また、自社所有物件の場合であつても、その取得代金等について物件上に既に担保権の設定があり、これを抹消して客に引渡す為には、代金等を先受けして被担保債権を弁済しなければならないのである。したがつて、先の如く大野が経済的に苦境におちいると、新たに客から受取つた金は、直ちに、先口の別の客との契約の履行の為に費消され、新たな客との契約履行の為には、さらに別の客をさがすか、高利の金を借りるかしなければならないという自転車操業の状態におちいり、かつ、月六分ないし八分の高利の借入金の割合が次第に増加し、その利息の支払いに追われることとなつた。そして、昭和五一年四月には、手形不渡りのため銀行取引も停止され、同年七月末には、負債総額は一億円を超え、純負債も七〇〇〇余万円に急増した。この為、その頃から、もはや正常な営業は到底困難となり、大野は、取引完了の確証のないまま客から多額の中間金を受領し(別表の7、8等)、あるいは、自社で売却ずみの物件を二重売買し、双方から金員を騙取する等の問題(別表の12、13)を起している。

(三) 他方、この間、同年七月二八日には不動産取引による被害者ら七名及び債権者らとの集団交渉が持たれ、大野に対し強硬に弁済の要求がなされた。また、前述のとおり、八月四日には宅建業係のあつせんによる被害者らとの話し合いが持たれ、弁済を迫られ、また、被告府からは、処分権限を背景に弁済についての強い指導が加えられた。その結果、同年八月以降被害者らに対し若干の被害弁済がなされ始めたが、その弁済資金は、結局は、新たな顧客から受取る売買代金以外にはないわけで、高利の支払と合わせて一層被害者を増やす結果となつた。

ちなみに、昭和五一年度におこなわれた売買取引三二件のうち、遅延しながらもとにかく取引を完結し得たのは九件のみであり、残り二三件は契約の履行をなし得ず、結局、最終的にそのうち二〇件について、総額五五二四万円の被害が生じている。また昭和五二年度には、三月二三日までの間になされた一一件の取引すべてが不履行であり、総額二六八一万円の被害が生じている。

4  監督処分権限不行使の違法性

以上のとおり、被告知事は、昭和五一年初め頃から(有)誠和住研による被害の事実を知りながら、各被害についてその弁済を強く指導し個々の被害の回復に努力したのみで、翌五二年四月七日免許取消に至るまで、法に定める監督処分の権限を行使しなかつたのであるが、以下、右不作為の違法性の有無について検討する。

(一) まず、前記宅建業法六六条の免許取消の権限は、前述のとおり法文上その行使が知事に義務付けられているのであるが、同条三号についてみれば、先の大野に対する刑事判決は、昭和五〇年一一月二九日執行猶予期間の経過によつて効力を失つているので、その時以降、(有)識和住研は、直接同号には該当しなくなつている。

また、(有)誠和住研の免許は、大野が形式的な代表者をたてて法を潜脱してこれを受けたもので、同条八号に該当するということもできるが、この点は、先にみたとおり被告知事にも責任があり、昭和五一年になつてから、知事がこれを理由に免許を取消すことは、他の面で妥当性を欠くといわざるを得ない。

したがつて、被告知事が、これらの理由で免許を取消さなかつたことを違法であるとすることはできない。

(二) そこで、問題となるのは、六六条九号に基づく免許の取消並びに六五条一項、二項の指示及び業務の停止である。

まず、六六条九号は、前述のとおり業務停止事由にあたるもののうち、情状が特に重いものを免許取消事由とするものであるが、前掲別表の(有)誠和住研の行為は、宅建業法三五条一項、三九条一項、四四条、四七条一号等に違反し、六五条二項一号、二号、五号に該当することが明らかである。しかも、その生じてきた事情をみると、偶発的なものでないことが明らかである。そして、(有)誠和住研の実質上の主体である大野は、先にみたとおり、その少し前まで宅建取引上の犯罪行為によつて執行猶予中であつた者であり、宅建業法上の絶対的な免許不適格者であつた。その大野が、再び前件と同様の犯罪を繰返し始めたのである(前述のように免許制度において不適格者の排除について周到な配慮が払われていることからすれば、免許取消事由に該当するか否かの情状の判断にあたつても、右のような行為者にかかわる要素も重視されるべきである。)。

以上のような事情を総合すると、その後の被害弁済の有無を物に問題とするまでもなく、(有)誠和住研の行為は、六六条九号の取消事由にあたるとするほかはない。

そうだとすれば、被告知事は、同条により(有)誠和住研の免許の取消を義務付けられているのであるから、その不作為は、違法である。もつとも、それが違法となる時期の問題は、(五)においてさらに考察する。

(三) 次に、六五条二項の業務の停止については、前述のとおりその権限の行使が知事の裁量に委ねられている。したがつて、知事はその権限の行使を義務付けられないのであるから、その不行使については、原則として違法の問題を生じない。

しかしながら、その裁量権限の不行使が著るしく合理性を欠くような場合、すなわち、例えば具体的な事情の下において取引の関係者に損害の生ずる危険が差し迫つており、他方、知事においてその権限を行使することが容易で、かつ、それによつて右の危険を有効適切に除去でき、取引の関係者としてもそのことに期待することが制度の趣旨に照らして相当であるような場合に、知事がなお合理的な根拠なくして右の権限の行使を怠るときには、そのような知事の裁量処分権限の不行使は、知事に処分権限を認めた法の趣旨を無にするものであつて、宅建業法上違法であるとしなければならない。まして、右のような差し迫つた危険が、知事が違法に免許を付与したことに由来して生じてきているような場合には、知事は通常の場合以上に、その監督権限を行使して危険を除去する責任を負つていると解すべきである。

換言すれば、以上のような場合、知事は宅建業法上その権限の行使を義務付けられていると解されるのである。そして、その義務は、同時に、宅建業法上の究極の保護の客体でありながら、現に差し迫つた危険にさらされている個個の取引関係者との関係においてもまた、法的な義務であるとしなければならない(この点で、それによる危険が潜在的ないし抽象的なものに止まる違法免許の段階で、宅建業法上の違法性が直ちに取引関係者に対する関係での違法性につながらなかつたことと、判断を異にする。)。

(四) そこで、このような点から本件をみれば、次のとおりである。

すなわち、前述のように、大野は昭和五一年七、八月の段階では一億円余の負債をかかえて、既に経済的に破綻状態にあり、もはや正常な営業が困難になつていたこと、それまでの被告知事の個別的な指導にもかかわらず、七、八月には被害申告が続発してきていること、大野の取引形態は、その多くが、手付だけを打つた他人所有の物件を、あたかも自社所有物件の如くして売出すもので、当時既に自転車操業の状態にあつたこと、被告知事からの指導を含め、過去の被害者への弁償の負担が重くなつていたこと、さらには大野の前歴、性向等々これまで認定した諸事実を考え合わせると、同年七、八月以降においては、取引関係者に新たな被害が生ずる危険が、差し迫つていたことが明らかである(現に、前掲の甲第一九号証によれば、同年七月以降の取引に限ると、被害の生じなかつたのは、二五件中四件にすぎない。)。

他方、被告知事は、そのような事情を、続出してきた被害者からの事情聴取や、前記七月八日の立入検査あるいは大野自身からの事情聴取によつて、その当時既に知り、あるいはそのころ容易にこれを知り得たものと解され、これに反する証拠はない(現に、宅建業係長の吉田延夫も、前記のとおり八月四日の時点で、(有)誠和住研は処分を免れない業者であると認識したと証言する。)。したがつて、被告知事において、少くとも業務停止の処分、ないしは、法六五条一項の具体的な(例えば手付販売の禁止等の)指示をなすことは容易であつたと解され、かつ、そのような措置こそが、新たな被害を防止するうえで最も有効かつ適切な方法であつたことも明らかである。

一方、不動産の取引について一般の市民は、自ら損害を回避するための十分な能力を持つていないこと、そうであるからこそ、前記のように宅建業法が免許制度を設けかつ周到な行為規制を行い、かつ、これが改正のつど拡充強化されているのであるから、一般の取引関係者において、知事に免許付与の厳正な取扱いと監督権限の迅速な行使を期待することは、当然のことというべきである。

しかも、前記の危険は、もとはといえば、第二項で詳細に検討したとおり、被告知事が、宅建業法の趣旨に反して、(有)誠和住研に対し違法に免許を付与する等して大野の不動産業の継続を許してきたことに由来して生じてきたものであり、被告知事もその責を負うべきものなのである。

ところが、被告知事は、前記のとおり翌年四月に到るまで、(有)誠和住研に対して宅建業法上の処分を行つていないのであるが、その理由は、先にみたとおり、ひとえに、(有)誠和住研の業務を継続させながら、既に生じた被害の回復をはかることにあつたことが明らかである。そして、その為に、自ら、営業継続の阻げとなる業務停止処分や指示の権限の行使を留保し、かつ、警察の強制捜査を遅らせるようにとの被害者らの陳情にさえ手を貸しているのである。しかしながら、このような被告知事の措置は、明らかにその方向を誤り、著しく不合理なものとするほかはない。けだし、免許監督権者として最も優先して考えなければならないことは、過去の被害の救済などではなく、まず新たな被害の発生の防止でなければならない。そのことは自明のことというべきであるにもかかわらず、被告知事の宅建業係では、前記のように西口を呼出して誓約書を提出させ、宅建取引主任の設置を指導した(法六五条一項の指示ではない)というだけで、何ら実効性のある措置や監視を行なわないまま大野の営業の継続を許している。その結果その後も新たな被害が続発しているのである。しかも、前記のような大野の営業の実態に照らすと、被告知事が、過去の被害者と共に、監督処分権限を背景に、既発の被害の弁償を指導すること自体が、その資金を得るための新たな被害を生むという関係にあつたことも明らかである。

以上を要するに、被告知事における処分権限の不行使は、著しく合理性を欠き、宅建法上も、また、個々の取引関係者に対する関係でも違法なものとするほかはない。

(五) もつとも、いつの時点以後、被告知事の右不作為が違法となるかの問題は、特に原告の昭和五一年九月三日、四日の取引との関係で微妙なところがある(特に、被告府においては、被害申告ないし行政指導の経緯等について膨大な内部資料を有するとしながら、その内容を明らかにしないので、証拠上、具体的な事実の認定が困難である。)。

そこで、以上認定の事実を基にこの点について検討すると、まず、前述のとおり(有)誠和住研による被害の申告が続発したのが、昭和五一年七月、八月のことであること、被告知事は七月八日に立入検査をしていること、別表記載の判明した限りでの被害申告日時、及び、宅建業係長の吉田延夫が、(有)誠和住研について処分を免れ難いと判断したのが、八月四日の被害者らと大野の話し合いの場であること、〈証拠〉によれば、宅建業法上の処分については、同法六九条の公開による聴聞手続等との関係で、従来、簡単な事案でも一ケ月程度を要していると認められること、同年六月までの被害申告分は、個別的な指導によつて一応被害回復がなされてきていたこと等を考え合わせると、そして、さらには、前述のとおり被告知事の裁量処分に関する不作為が違法とされるのは、それが著しく不合理であるときであつて、その権限の行使は原則としては知事の裁量にゆだねられていること等を総合すれば、結局、前記八月四日から一月後である九月四日以前に、被告知事の不作為が違法となつたものと断ずることは困難であるとせざるを得ない。ただし、遅くとも一〇月一日以降においては、その不作為は、著しく不合理であつて違法なものとすべきである。

そして、以上の判断は、前記(三)項の六六条九号による免許の取消の時期に関しても同様である。けだし、この場合、免許の取消自体については裁量の余地がないのであるが、反面、その要件は厳重であつて、その認定にも困難があり、手続的にもおのずと慎重さが求められるのであるから、結局彼此差引きすると、本件事案において、不作為が違法となる時期については、大差がないものと解される。

本件証拠上、他に以上の判断を左右するに足るものはない。

5  被告府の損害賠償責任

前項までの検討により、被告知事が(有)誠和住研に対し免許の取消、業務の停止ないしは実効性のある指示をしなかつたことが、遅くとも昭和五一年一〇月一日以降は著しく合理性を欠き、原告に対する関係でも違法とするほかないこと、及び、これについて被告知事に故意もしくは過失の存在することが明らかである。

そして、原告の損害(但し、昭和五一年九月三日、四日の支払金による分を除く)は、まさに、被告知事がその権限を行使してその発生を防止すべき作為義務を負つた取引関係者の損害そのものであり、かつ、被告知事が適切な処分を行つていれば、これを防止し得たことが明らかであるから、被告知事の前記不作為と右損害との間には、相当因果関係が存在するものとすべきであり、後記認定のような原告の取引上の過失のゆえに、これを否定することはできない。

したがつて、被告府は原告に対し、右損害を賠償する義務を負つている。

第三被告西口の損害賠償責任について

一事実関係

被告西口が、大野の妻大野美恵子の実弟であつて、昭和四八年一二月二〇日、大野にかわつて(有)誠和住研の取締役に就任したことは、当事者間に争いがない。

また、同人が、名目上の取締役であつて、(有)誠和住研の現実の業務には一切関与せず、報酬も受けていないこと、しかしながら同人の就任によつて(有)誠和住研の継続が可能になつたこと、同社による被害が発生しだした後、同人は、昭和五一年七月九日京都府に出頭して、二度と苦情が起らないよう注意を受けると共に、誓約書を提出していることも、既に認定したとおりである。

二不法行為責任

1  しかして、原告は、右のような事実に基づいて、被告西口が、大野の前歴行状を良く知り、大野が自己名義では宅建業の免許を受けられないために、あい謀つて(有)誠和住研を設立し、さらに、被害発生の事実を知りながら名義貸与を継続して、大野の詐欺的取引を幇助したものであるから、大野の共犯者として、民法七〇九条による不法行為責任を負担すると主張する。

しかしながら、前記身分関係等によれば、被告西口が大野の前歴、行状等を知つており、また、京都府に出頭した後は、大野による被害が発生していることを知つたことは認められるにしても、それ以上に、(有)誠和住研の名目的な取締役に就任した当時に、大野の犯罪を未必的にせよ予測しながら、これを幇助するためにあえて名義を貸与し、あるいは、京都府から大野の具体的な犯罪事実を知らされながら、これを幇助するためにあえて名義を貸し続け、もつて大野の犯罪行為に加功したとまでの事実を認めるに足りる証拠は存在しない。

よつて、右幇助を理由とする民法七〇九条七一九条二項、一項の主張は、採用し難い。

2  次に、原告は、被告西口は実質的に大野の使用者たる地位にあつたとして民法七一五条により責任を負うと主張する。

しかしながら、被告西口は(有)誠和住研の名目的取締役にすぎず、その業務にも関与せず報酬も受けていないのであるから、同人が、実質的に大野の使用者であつたといえないことは明らかであり、他にこの点を証する証拠は存在しない。

よつて右民法七一五条、七〇九条の主張も採用し難い。

三取締役としての責任

次に、原告は、被告西口について、有限会社三〇条の三による取締役の任務懈怠に基づく損害賠償責任を主張する。これに対し、被告西口は、自らは全く名目的な取締役にすぎず、会社の業務一般に関与したことはないので、取締役としての責任を負わないと主張する。

しかしながら、被告西口は、自ら取締役への就任及び就任の登記をなすことに承諾を与えているのであるから、その後の(有)誠和住研の実態が仮りに同被告の主張するとおりであつたとしても、そのことは、同被告が法に基づく取締役としての責任を免れる理由とはならない。ちなみに、〈証拠〉によれば、(有)誠和住研の取締役は、被告西口就任後は同被告のみであり、同被告は、法律上(有)誠和住研の唯一人の代表者なのである。しかして、前記認定事実及び〈証拠〉によれば、同被告は、かねて(有)誠和住研の業務に関与せず、特に、京都府からの指導を受けて誓約書を提出した後もなお、第三者の損害の防止について取締役として何等の有効な措置をとらないままに、既に経済的に破綻状態にある大野に対し、(有)誠和住研としての営業の続行を許し、原告に対する本件不正取引を生ぜしめたことが明らかであり、右が、取締役としての、悪意又は重大な過失による任務の懈怠にあたることは、多言を要しない。

なお、被告西口は、有限会社法三〇条の三所定の悪意又は重過失は、第三者に対する関係で存在することを要すると主張するが、これを採用し難い(最判昭和四四年一一月二六日民集二三巻一一号二一五〇頁参照)。

四結論

したがつて、被告西口は、有限会社法三〇条の三に基づき、大野が(有)誠和住研として原告に与えた損害を賠償する責に任ずべきものである。

第四損害について

一財産的損害

原告が、大野の不正取引によつて本件土地建物の代金として合計七四〇万円を支払わされ、これを失つたことは、第一項認定のとおりである。したがつて、これによつて、原告は同額の損害を被つたものと認められる。もつとも、被告府との関係で賠償を求め得るのは、そのうち、昭和五一年一一月二五日に支払つた中間金三九〇万円に相当する損害に止まることは、前述のとおりである。

二精神的損害

原告は、本件不正取引によつて全財産を失い、かつ、結婚話も破綻となるなどして、精神的損害を被つたと主張し、〈証拠〉によれば、請求原因四1(二)記載のとおり事実が認められ、これに反する証拠は存在しない。

右事実によれば、原告は、その主張するとおり、単に財産的損害に止まらず、それ以上の精神的損害を受けているものというべきである。しかしながら、原告の主張する右精神的損害は、原告が金銭上の損害を被つたことによつて二次的に生じた損害であるというべきところ、通常の場合は、そのような損害は、金銭上の損害が賠償されることによつて同時に慰藉されるものと考えられる。したがつて、これによつてもなお償われない損害(原告の精神的損害の多くはこれにあたるものと考えられる)は、特別の事情による損害として、加害者においてこれを予見し、又は予見し得た場合でなければ、その賠償を請求し得ないものである。

しかして、不正取引の当事者である大野自身においてはともかく、被告知事及び被告西口においてこれを予見し又は予見し得たとする証拠は、本件において何も存在しないから、結局、右各被告との関係では、その賠償を求め得ないものとするほかはない。

三過失相殺

1  過失相殺について、被告らの明示的な主張はない(ただし、被告府は、原告の過失を因果関係否認の事情として実質的に主張している。)が、過失相殺は、操害賠償額を算定するにあたり、当事者の主張がなくても当然斟酌することのできる事項であるところ、前記損害の発生については、原告にも相当の過失があることは否定し難い。

すなわち、〈証拠〉によれば、原告は、本件家屋を含む三軒の建売住宅に(有)誠和住研の看板があるのをみて、案内を求めたうえで本件売買契約を締結したものであるが、契約の締結及び申込金五万円及び手付金等三四五万円の支払いにあたつて、登記簿等を調査していないこと、もつとも、その二日後に、念のため土地の登記簿を調べたところ、これが株式会社日建開発名義になつていることを知つて、驚いて、大野に電話したところ、大野は、改めて表題部のみの登記簿騰本を持参し、なぜ自分を信用してくれないのか、現在便宜上名義を日建開発にしているが、まちがいなく所有権を移転するとの説明をしたため、これを信用してしまつたこと、その後、移転登記を約束していた昭和五一年九月末日までに登記ができなかつたが、それは、住宅ローンによることとしていた三〇〇万円について、銀行側の決定が遅れているためであると説明され、かつ、その際用意しておいた中間金を大野が受取らず、もう一度銀行に戻しておくように言つたことから、かえてつて大野を信用してしまつたこと、そして、同年一一月二四日ごろになつて、大野から、銀行ローンの決定が同月二六日には行なわれることになつたので、中間金を支払うようにとの連絡を受けて、これを疑うことなく、残じ三九〇万円を支払つたことが認められ、これを左右するに足りる証拠はない。

2  ところで、不動産の取引について、登記が重要な意味をもつものであるという程度の知識は、広く一般に知られていることであり、かつ、不動産の取引にあたつて多額の金銭を支払うときは、あらかじめ登記を調査し、不審な点は登記名義人やローン取扱会社に確認する等の注意を払うことが望まれることは、いうまでもない。

しかしながら、不動産の取引は、多くの市民にとつては経験の乏しい取引であつて、これについて十分な法律的知識を期待することが現実的でなく、多くは、公認の宅建業者を信頼するしかないこともまた、経験上明らかである(そうであるからこそ、先にみたとおり、宅建業法の各種行為規制が改正のつど増々拡充され、かつ、免許の基準が厳しくなつているわけである。)。

3  そこで、これらの事情と前記認定事実を総合して考えると、前記契約時における申込金五万円及びその翌日の手付金等三四五万円の支払に際し、原告があらかじめ登記簿を調査しなかつたことをもつて、原告に過失があるとして賠償額を減ずることは、酷に失するものといわざるを得ない。ただし、一一月二五日の中間金三九〇万円の支払については、既に土地の登記名義が(有)誠和住研にないことが判明していたうえ、契約の履行が二ケ月半以上も遅滞していたのであるから、その間に十分な時間的余裕があり、ローン取扱会社や登記名義人に照会し、あるいは、専門的知識を有する者や府の宅建業係に相談するなりの注意を払うことが、十分可能であつたといわざるを得ず、そうしたならば、被害を避けられたものと推認されるのである。

したがつて、これらの注意を怠り、大野の詐言を軽信した点で、原告にも過失があるとするほかない。そこで、右三九〇万円に対応する損害については、その約四割弱を減じて、損害賠償の額を、二四〇万円とするのが相当である。

四弁護士費用

〈証拠〉に照らすと、原告は、本件損害の賠償を受けるために、弁護士に委任して本件訴訟を提起するほかなかつたこと、及び、報酬として請求額の一割の支払を約していることが認められる。そして、本件訴訟の内容、各被告について認められる後記認容額等諸般の事情に照らすと、右弁護士費用のうち被告府との関係では三〇万円、被告西口との関係では六〇万円(ただし内金三〇万円は被告府と不真性連帯)が、本件不正取引と相当因果関係を有する損害にあたるものというべきである。

五結論

そうすると、原告に認められる損害賠償額は、被告府との関係では二七〇万円、被告西口との関係では六五〇万円となる。

なお、遅延損害金については、被告府との関係では、損害発生の日(すなわち大野の金員騙取の日たる昭和五一年一一月二五日)に既に遅滞にあると解することができるが、被告西口との関係では、その責任は有限会社法三〇条の三の責任で不法行為責任そのものではなく、請求のときに始めて遅滞に付されるものというべきである。そして、右請求について特段の主張はないから、結局、訴状副本送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五三年三月一九日をもつて、遅延損害金の起算日とすべきである。

第五むすび

以上によれば、原告の本件請求のうち、被告府に対する請求は、金二七〇万円及びこれに対する昭和五一年一一月二五日から支払ずみまで、民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、被告西口に対する請求は、金六五〇万円及びこれに対する昭和五三年三月一九日から支払ずみまで右同様の遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

よつて、本訴請求を右の限度で認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条を適用し、被告府の仮執行免脱宣言の申立は相当でないからこれを却下することとし、主文のとおり判決する。 (小田耕治)

別表〈省略〉

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